大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2007号・昭31年(ネ)1995号 判決

しかし前段説示によつて明らかな如く、第一審原告は、第一審被告所有のドラム罐入醤油油四本をその意思に反して他に搬出処分しその所有権を喪失せしめたのであるから、右不法行為に因り相手方に蒙らしめた損害を賠償する責がある。よつてその数額について考えてみるに、不法行為に因る物の滅失毀損に対する現実の損害賠償額は、滅失毀損当時の交換価格によつてこれを定むべく、本件において前示不法行為に因る賠償債権を反対債権として相殺に援用している第一審被告も、右不法行為当時である昭和二十三年七月上旬における前示ドラム罐入醤油油四本の時価を選択し、右額は金三十六万円であるとして、右金額に相当する損害賠償債権を有すると主張するけれども、右昭和二十三年七月上旬当時にあつては、醤油油については価格が統制されており、また前示ドラム罐入醤油油一本の容量は一石一斗(二百立入ドラム罐)であることは、当審における第一審原被告双方本人尋問の結果によつて明らかであるから、当裁判所に顕著なる当時の統制法令である昭和二十三年五月二十五日物価庁告示第二百九十号(植物油等の販売価格の統制額指定の件)によつてドラム罐入醤油油四本分の公定価格を算定するときは、一本につき金六千二百八十一円(統制額の最高である一口一升未満を販売する場合の販売業者販売価格の統制額、単位一合につき金五円七十一銭によつて前示一石一斗に換算した額)四本で合計金二万五千百二十四円を出でないことは明らかである(訴訟資料に顕れなくても物価庁告示の公定価格によつて損害額を算定するのが違法でないことにつき、昭和二十八年十月十五日最高裁判所第一小法廷判決、判例集第七巻第十号一〇九三頁参照)。尤も第一審被告はこの点につき、前記主張の価額は公定価格を遙かに超えた所謂闇価格ではあるが、右不法行為当時第一審原告は、第一審被告において右醤油油を三菱製紙株式会社中川工場に納入することになつており、他からこれを入手するには前記金額の闇値で買い取る以外に方法のなかつたことを予見し、または予見し得べかりしものであつたところ、第一審被告は前記醤油油ドラム罐四本分を他から闇値で合計金三十六万円を費して集荷し、これを三菱製紙に納入するの巳むなきに至つたのであるから、右公定価格を超える分についても不法行為に因る損害として賠償を請求し得ると主張する。思うに不法行為に因る損害賠償についても民法第四百十六条の規定を準用すべきものではあるが、公定価格のある商品については、その価格を超えて売買譲渡することは法の禁止するところであるから、たとえ第一審被告において当時、その主張のような高額の闇値で入手を余儀なくせられたとか、若しくは闇値で他に売却し得たとかいう前提の下に、右公定価格を超過する分についても現実に受けた損害として賠償を請求することは、法の保護に値しないところとして許さるべきでなく、このことは第一審原告において第一審被告主張のような特別の事情を、予見し若しくは予見し得べかりしや否やにかかわらないものと謂わねばならない。

してみると第一審原告は第一審被告に対し前示不法行為当時において、前示ドラム罐入醤油油四本分の公定価格に相当する金二万五千百二十四円にあたる損害を賠償する責ありというべきところ、第一審被告は昭和二十九年八月二日の第一審口頭弁論期日において、右債権と本訴求償債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、記録上明らかであるから、右相殺の意思表示は相殺適状の時たる昭和二十八年十一月三十日(前示第一審被告が残額債務の支払をなすべきことを約した弁済期日)に遡り効力を生じ、前示第一審原告の有する本訴求償債権は右反対債権の限度で消滅し、残存債権は結局金二十八万八百七十六円及びこれに対する昭和二十八年十二月一日以降完済まで年六分の率による金員となる筋合である。

(斎藤 坂本 小沢)

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